大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所 昭和62年(行ウ)3号 判決

原告

株式会社マルエス札幌ステーションホテル

右代表者代表取締役

鈴木末吉

右訴訟代理人弁護士

山本隼雄

齊田顕彰

右訴訟復代理人弁護士

舛田雅彦

被告

札幌市ていね稲積土地区画整理組合

右代表者清算人代表

小野彦春

斎藤陽子

坂原正治

主文

被告が、原告に対してなした、別紙昭和五九年七月一〇日付換地処分通知書に記載の換地処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二事案の概要

一原告は、従前、別紙昭和五九年七月一〇日付換地処分通知書添付の各筆各権利別清算金明細書の従前の土地欄記載の土地(以下「本件従前地」という。)を所有していた者である(当事者間に争いがない。)。

被告は、札幌市西区(現在の手稲区)手稲前田八番地一から一八九番地三までの地域を施行地区とする土地区画整理事業を行うことを目的に土地区画整理法(以下「法」という。)に基づき設立された札幌市ていね稲積土地区画整理組合が法に基づく事業の完了に伴って解散し清算手続きにはいった清算法人である(〈証拠〉)。

被告は、原告に対し、昭和五九年七月一〇日付換地処分通知書をもって、本件従前地の換地として右明細書の換地処分後の土地欄記載の土地(以下「本件換地」という。)を指定し、交付清算金を一二七五万七〇一八円とする旨の処分(以下「本件換地処分」という。)をした(当事者間に争いがない。)。

二本件従前地は、北西側の一辺が二〇メートル、北東側の一辺が三七二メートル、南東側の一辺が二五メートル、南西側の一辺が三八二メートルの矩形の土地で(当事者間に争いがない。)、送電線下にあり、昭和三八年一〇月二三日に路線認定され、その後、都市計画決定(昭和四八年四月二〇日付け北海道告示第一一〇八号)された街路である一般道道下手稲札幌線(下手稲通り)の道路予定区域の一部であったところ、原告代表者ほか二名は、昭和四五年一一月頃、当時原野であった本件従前地を含む一帯の土地約四万六〇〇〇平方メートルを購入し、昭和四六年九月の原告設立とともに、右土地は原告が所有することとなった。北海道は、道路供用開始の準備のため、昭和四六年一一月頃、本件従前地を評価・測量して道路境界を定めて石杭を入れ、同月四日、原告の承諾を得て従前土地の分筆登記をし、原告との間で買い取り価格の交渉も行ってきたが、昭和四七年二月に札幌市が政令指定都市となり、昭和四九年八月二〇日に被告が設立され、本件従前地における右道道の建設も、被告がその事業の一環として行うこととなり、他方、原告は、昭和四六年から四七年にかけて、本件従前地の周囲の土地を本件従前地が道路となることを前提に分筆のうえ順次売却した。本件従前地は、本件土地区画整理事業の完了により、予定通り、道道下手稲札幌線(下手稲通り)の一部になった(〈証拠〉)。

三本件土地区画整理事業において、換地の算出は評価式換地計算法の方式により行われ、本件従前地・本件換地の評価及び清算金の決定は、組合が独自に定めた別紙土地評価基準(以下「土地評価基準」という。)に基づき、路線価式評価法に従って次のような方法でなされた(〈証拠〉)。

1  本件従前地のあった第一工区(面積約72.5ヘクタール)内で現況道路として使用されていたのは、本件従前地の北側に東西に走る道路、東側に南北に走る道路、南東側に東方向に走る道路、南側に南方向に走る道路の四本であり、右道路だけに路線価を付した場合、右道路の沿接地以外の大半の土地は全て盲地として評価せざるをえなくなり、評価技術上適正な評価ができないとの判断の下に、土地評価基準第三において、「評価上必要であると認められる場合は第五の規定に準じた方法により路線価を付する事ができるものとする。」との規定を設けて、いわゆる道路予定地に対して路線価を付することとし、本件従前地も道路予定地として右の例によることとした。

2  路線価は、街路係数に比重を乗じた値及び宅地係数に比重を乗じた値並びに接近係数に比重を乗じた値をそれぞれ加えるという算式により算定し、整理前の最大路線価を指数一〇〇〇個として、これと比較換算した指数により表示するものとした。次に、求められた路線価(指数)に従前土地の宅地評価に係る必要な修正を行い、これに土地面積を乗じて得られた指数をもって従前土地の価値を表す評価指数とする。

これによると、本件従前地に関しては、路線価係数が4.575なので路線価指数は九七〇個と算出され、さらに宅地評価に係る修正として、土地評価基準第一七2(1)によって、「沿道宅地の用に供することを予定し、間口に比して奥行が三倍以上の画地」の減価修正率0.5を、土地評価基準第一五(7)によって、送電線線下の土地の減価修正としてその部分につき0.5を、送電線下に接する土地につき0.9をそれぞれ乗じ、その結果、一平方メートルあたりの評価指数は四六四個と算出され、従前土地の地積は七五八二平方メートルであるから、その評価指数は三五一万八〇四八個と算出された。

右評価指数に評価指数一単位あたりの単価一九円を乗じ、さらに比例率1.140796を乗じて、本件従前地の権利価額の総額は七六二五万四一八二円と求められた。

なお、ここに評価指数一単位あたりの単価一九円は、不動産鑑定及び固定資産税評価額等に基づいて算出した整理前の一平方メートルあたり平均土地価格八五〇〇円を基準として、これに整理後までの増進率2.13246(整理後の評価指数の総計を整理後の総宅地面積で除した値1454.40を、整理前の評価指数の総計を整理前の総宅地面積で除した値682.04で除して求めた。)及び時点修正率1.526(札幌市西区内及び地区周辺の一般標準住宅地の価格上昇率及び六大都市を除く市街地価格推移(住居地)の上昇率により、昭和四九年八月から昭和五九年三月までの地価の変動率を算出したもの)を乗じて、整理後の一平方メートル当たり平均的土地価格二万八三一二円を算出し、これを整理後の平均評価指数1454.40個で除するという方法で算出し、比例率1.140796は、整理後の宅地の総評価額七六億九二七七万五六五一円を整理前の宅地の総評価額六七億四三三三万五三五三円で除した数値である。

3  他方、本件換地は、面積が計2273.44平方メートルであり、権利価額が計六三四九万七一四六円と計算された。

4  換地処分にあたっては、前記の方法で計算された土地価額につき、従前地と換地間で差が生ずる場合にはそれに相当する清算金が授受される旨、組合定款に規定があり、本件換地処分における清算交付金は一二七五万七〇一八円と決定され、本件換地処分による減歩率は六割四分となった。

四本件争点は、本件従前地が次のとおり不当に低く評価され過大な減歩がされたため、法八九条に定める照応の原則に反し近隣土地所有者に比較して著しく不利益かつ違法な換地処分がなされたとする原告の主張の当否である。

1  本件従前地の路線価指数は少なくとも九九〇個とされるべきである。

なぜなら、本件従前地の北側に位置し、本件従前地と平行する幅員八メートルの道路状の土地付近の路線価指数は九九〇個とされているが、本件従前地付近に都市計画道路が建設予定であることを考えれば、本件従前地付近のほうが将来値上がり確実であり、その路線価指数が九九〇個を下回ることはないと考えられるからである。

2  本件従前地に土地評価基準第一七2(1)を適用することは違法である。

本件従前地は、原告が取得、所有していた約四万六〇〇〇平方メートルの広大な土地の一部であって、本件土地区画整理事業前、周辺土地と同様の原野であり、周辺分譲地のための道路として建築基準法四二条一項一〇号の道路位置指定がなされたこともない。たまたま、北海道が道道下手稲札幌線の用地に内定し、原告の了解を得て道路用地として分筆登記すると同時に、原告との間で買い上げ価格の交渉を進め、その後、右道路の建設は札幌市、さらには被告設立とともに、被告に移管されたにすぎない。したがって、被告が行った評価は、本件従前地が土地区画整理事業により道路になるということを見込んで右基準第一七2(1)を適用したものであって、従前地の評価に土地区画整理事業施行後の将来の事情を考慮したものであり、違法である。

仮に、当初の計画通り北海道が本件従前地を任意に買収して道路としていれば、正常な取引価格をもって補償されて道路にすることを理由に低く評価されることはなかったはずでありこれを考えれば、任意買収の場合との均衡を失し、憲法二九条の趣旨に反することにもなる。

したがって、本件従前地には土地評価基準第一七2(1)を適用すべきでなく、盲地として同基準第一四を適用すべきであるのにこれを誤った違法がある。

3  送電線下の土地として減額して評価したのは、違法である。

土地評価基準によれば、同基準第一七が適用される土地は、同基準「第七画地の平方米当指数及び総指数」の適用除外であり、したがって同基準「第一五 指数の修正」の適用もないはずである。したがって、同基準第一七を適用したうえ、同基準第一五を適用した価額算定方法は違法である。

また、本件従前地に設置されていた送電線は無権限で設置されたものであるから、原告が右送電線の架設による本件土地の使用を受忍すべき理由はなく、したがって、送電線下の土地として評価することは違法である。

4  以上の違法な評価により、本件換地処分においては七割の減歩となっており、本件従前地の減歩率が一割四分ないし四割であるのに比し著しい不利益を被っている。

第三証拠〈省略〉

第四争点に対する判断

一路線価指数について

〈証拠〉によれば、本件従前地の北側の原告主張の土地は現況道路が東西に走っているのであって、現況道路となっていない本件従前地とその点において異なることが認められるから、路線価に若干の高低がでてくるのも止むを得ないところである。そして、前者の路線価指数が九九〇個であるのに対し本件従前地のそれが九七〇個であって、その差もわずか二パーセントであることを考慮すると、右の点が違法であるとまではいえない。

原告は、本件従前地付近に都市計画道路が建設予定であって本件従前地のほうが将来の値上がりが予想されると主張するが、従前地の評価は、あくまでも事業開始時に実際に各土地が有していた状況から定められるべきであって、将来の事情は評価の要素として考慮されるべきでない。

二土地評価基準一七2(1)の適用について

土地評価基準一七2(1)は、「私道等の評価」という題目のもとに、沿接宅地の用に供することを予定し、間口に比して奥行が三倍以上の画地について五割の減額をする旨被告が独自に定めた規定であるが、これが合理性を有し、また、必要であることを認めるに足りる証拠はない。ところで、本件においては、路線価式評価法を採用しながら、前記のとおり、現況道路が四本しかないことを理由に評価技術上適正な評価をするために道路予定地にも路線価を付す方法によるべく、その旨の土地評価基準第三を設け、いわば道路予定地を道路と擬制してその沿接土地に路線価を付しているところ、このような方法によらなければ評価技術上適正な評価ができないものか否かを明らかにさせる証拠はないが、その点はしばらく措くとしても、右方法は、現況道路に隣接する土地とその他の隣接しない土地との妥当な調整を実現するという目的のかぎりで許されると解されるのであって、それを超えて、道路予定地とされた土地の評価につき、右土地そのものを道路と擬制したような評価をするのは妥当でない。被告は、右方法を採用したことが基準第一七2(1)を設けた理由となるとするようであるが、相当とはいえない。

また、本件従前地は、隣接土地と同様の現況原野の土地であって、道路予定地であっても道路ではない。したがって、右土地が本件土地区画整理事業の結果道路となるべきものであることを理由に、その事情を従前地の評価の要素とすることは、本件土地区画整理事業の結果という将来の事情を考慮するものとして許されない。被告は、本件従前地のような沿接宅地の用に供することを予定された土地は、その利用が制限されることが確実に予想されるとするようであるが、少なくとも、本件従前地については路線の認定がされ、土地計画がされたというだけのことであって、法律上・実際上意味のある利用上の制限があるわけでなく、仮に道路区域の決定などがされて利用上の制限があるとしても当然のことながらそれによる損失の補償のされることが法律上規定されていて(道路法九一条等参照)、土地評価の上で価値が低減していることにはならず、右の点も採用できない。

なお、〈証拠〉には、道路予定地の沿接宅地を道路に隣接しない盲地として評価することが妥当でないとの理由から、図面上分筆売買された後の残地である道路予定地はいわば「蛇の脱け殻」で価値がない旨の記載があるが、原告代表者本人尋問の結果によれば、昭和四六年から四七年頃、本件従前地の隣地を分筆・分譲した際の価格は坪あたり一万八〇〇〇円ないし二万円であり、昭和四九年に本件従前地につき坪あたり約一万七四〇〇円(合計四〇〇〇万円)で売買契約を締結したことが認められ、少なくとも、本件において土地評価基準第一七2(1)に規定された五割の減額を支持するような事情は見当たらない。

のみならず、実質的に考えても、本件において、北海道なり、札幌市なりが本件従前地を買収して道路の建設に至っていれば、正常な土地価格の補償のもとに公共用地として取得されていたはずであって、たまたま、本件土地区画整理事業において被告が道路建設にあたることになったことにより本件従前地の評価が低くされるということは、本来、事業施行地内の各従前土地所有者に公平に分配すべき道路建設の負担を本件従前地の原告のみに負わせる結果となり、妥当でない。

三土地評価基準第一五7の適用について

同基準第一七が同基準「第七の規定にかかわらず」と規定しているところを素直に読み、かつ、同基準第一六には道路部分を含む画地については道路部分とその他の部分とに分割したうえ道路部分は第一七の規定により計算しその他の部分は第七の規定により計算するとの規定があることを考慮し、また、同基準第一五には(1)、(2)のような明らかに同基準第一七との重複適用が不合理な条項が含まれていることに照らせば、同基準第一七を適用したうえ同基準一五7を適用することはできないというべきである。

四本件換地処分は、本件従前地の評価につき違法の点があり、したがって、与えるべき換地の地積が過少に算出されていて、清算交付金を加味しても六割四分の減歩となっており、本件従前地の周辺土地の換地率が一割四分ないし四割であること(〈証拠〉)に比し、著しく不利益な内容であって、違法であることを免れない。

もっとも、本件換地処分と同程度の減歩率となっている二五筆の土地(道路予定地)があるが、右各土地は、その間口がすべて一〇メートル以下(奥行はその三倍以上)であって(〈証拠〉)、本件従前地とは面積、形状ひいてはその利用価値を異にすると考えられるうえ、道路予定地とされた具体的事情を明らかにさせる証拠もないのであるから、これらの土地の評価と本件従前地の評価とを同列に論ずることはできないというべきである。したがって、これらの土地が道路予定地として減額評価されたという事実があるとの一事をもって、被告の行った本件換地処分が正当化されることにはならないのである。

よって、本件換地処分を取り消すこととして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官若林諒 裁判官長久保尚善 裁判官宮永忠明)

別紙〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例